しかしそう易々とは抜けさせてくれない。
周涅と久涅による即座の反応がコンマ何秒の世界。
久涅の出現の目的は、周涅と完全に同一であるとは言えないみたいだが、阻もうとする魂胆は同じらしい。
玲様の腹に入ろうとした足は、玲様が寸前でかわした。
「芹霞、僕の首に捕まっていて!!」
そして玲様は首に縋った芹霞さんを片手で抱き留め、直後来た第二陣の足を払い手で弾く反動を利用し、足に触れたその瞬間の自分の手を軸に宙に舞う。
いつかのように足にスカートを挟み、その上、芹霞さんの太股あたりに手を添えて彼女のスカートまで抑えた余裕までみせ、しかも披露したのは、その高身長からは想像出来ない見事な軽やかさ。
ふたり分の体重が、こんなに柔らかな動きをする片手だけを支軸に即座に舞い上がることなど、普通は出来まい。
緋狭さんが伝える"重心ずらし"は、体の構造を熟知した上で、達人の域になれば指一本で自らではなく他人の体をどうとでも動かすことが出来るというが、その域に近付いているというのだろうか。
玲様は昔から優雅で舞うような動きと、心臓に負担がかからない電光石火のような素早い攻撃を得意としていたけれど、今見るだけでも、身のこなし方に無駄がなくなり、その身体能力があがったように思えた。
朱貴と特訓したと言っていたが、こう短期間で成果は出るものなのか。それとも、玲様だからの成果なのか。
まるで優雅に、ひらひらと舞う蝶のよう。
「逃がすか」
そんな玲様を追い、宙に跳ねた周涅は、蝶の捕獲者の如く。
今まで肩に担いでいた美咲は、無残に地に打ち捨てられた。
目的は採集だけではなく、解体をして愛でたいとでもいうような…ある種変質的な狂気を感じ取った私は、糸で巻いた遠坂由香と化けネコを引き寄せながら、広く硬く編み込んだ糸を玲様の盾に補助を試みる。
しかし私の糸は、赤銅色の炎に燃やされる。
「お前の相手は俺だ」
目の前に漆黒。
突き出された拳を横転して躱したが、私以外は反動で転がってしまったらしい。
悲鳴を上げる遠坂由香と化けネコを寸前で壁の激突から救う。
ばしっばしっと重い音が響く空間。
振り向けば、玲様が立ちすくむ芹霞さんを守るように、その周辺でくるくる周りながら、周涅の攻撃を受け流して反撃しているようだ。
互いにまだ顔には余裕がある。
相手を推し量りながらも、周涅が満足そうな顔をしているということは、やはり周涅から見ても玲様は強くなったのだろう。
絶対的な周涅を喜悦させられるだけの、早さと強さが玲様にはある。
対して私はどうだ?
私の力は依然周涅に及ばないばかりか、ここには無効の黒皇。
周涅も久涅も、戦意を見せて捕獲に乗り出してくるこの現況、私は抜けることが出来るのか?
……誰が、諦めるものか!!

