しかし嘲笑ったのは、周涅。


「ははははは~。久涅ちゃん、無効の力を持っているのに、黄色い蝶と、それを操る者とを操っているんだ~。すごいね~」


イラッとした。

私はどうも氷皇に類する者は生理的に受け付けられないらしい。


「黄色い外套男っていうけど、ワンちゃんもそうじゃなかったの~? だったら久涅ちゃん、ワンちゃんも操れたんだ? 蝶だけではなくイヌもなんて、あっちもこっちも大変だね~」


違うのか。

周涅の言い方では、久涅は黄色い蝶も外套男も操っていないということになる。


「何で煌が外套男だって、あんたが知ってるの!?」


芹霞さんが、私の背後から顔を出す。

それをじっと見つめる久涅の視線に気づき、ぷいと顔を横にそらすと、僅かに…久涅の顔が歪んだ。


それはまるで恋に悩む櫂様を見ているようで、被害者ぶっているようにも思える久涅の切なそうな面差しが、無性に苛立って仕方が無い。


「そりゃあ知っているさ。久遠くんだって知ってただろう?」


愉快そうな笑みを浮かべて周涅が言えば、それに反応したのは…この中で"約束の地(カナン)"に一番長く居た、遠坂由香だった。

驚いた顔から察するに、久遠は情報を仕入れていたのだろう。


「!!! なんでそれを…って、ニャンコ、クオン違いだって!!」


彼女は、私の肩のカバンから手を伸して反応(ジェスチャー)しているらしい化けネコを、軽くたしなめる。


「え、何で久遠がって……だからクオン違い!! 由香ちゃんも言ってるでしょう!?」


私の肩のカバンの取っ手がぐるりと回った気がする。

方向転換して、芹霞さんにも手を伸したのか。


面倒臭がりのくせに、名前には直ぐ様に反応し、意外と律儀な面もあるらしい。


――何。


それは櫂様を嫌っていながらも、櫂様の態度にいちいち反応する各務久遠の姿とよく似ている。


そんな化けネコをあやそうとしたのか、周涅が近付き…手を伸すと、かぷりと久遠はその指を飲み込むようにして囓りついた。


「ははははは、痛いな~。噛まれちゃったよ~。ネコちゃん、容赦ないね~。ワンちゃんもギャンギャン煩いけどさ」


イラッ。

イライラッ。


私はこんな男に、過去二度も敵わなかったのか。

腹立たしくて仕方が無い。


「久遠くんが知っていた理由なら簡単さ。彼は"約束の地(カナン)"から出られないのなら、外部からもたらすしかないじゃないか。だけど彼にはお友達がいないみたいだし? あ、君達お友達だっけ?」


「「勿論!!」」

「ニャア」


「……多分…」

「微妙だけど…」


同時に返事したのは女ふたりと化けネコ。

そこに玲様と私のためらった声が追従した。