「あたしもう、全然帰り道判らない」
「ボクもだよ。皆で絶対一緒に帰ろうね。ひ、ここに骸骨…!!」
行き倒れか、それとも"攻撃"されたのか。
「……神崎、思い出しているだろう」
「うん。"約束の地(カナン)"の洞窟もそうだったよね…」
ああ、あれは天使の双子に案内された洞窟だった。
確かそこも、錯綜させるための迷路があり、そこには出口に達することが出来なかった人間の骸が放置されていた。
しかし此処はそれ以上に複雑な分岐が用意されていた。
迷路の規模が違い過ぎる。
そこまでして守りたいものがある…薬理研究所の実体か。
地下施設にあるとは…。
やがて、石の扉が突き当たりに見えてきた。
この扉は……。
「玲くん、ますます"約束の地(カナン)"みたいだね。これ…レグの家にもあったよね、防護壁みたいなの」
レグ…白皇の家の中。
核シェルター並の防護を誇る扉が、此処にもある。
無関係ではないな、レグの設備とは。
むしろレグが此処に関わっていたのか。
そして当然、そうした石の扉の処には、
『名前をどうぞ』
「コード№331 三善美咲」
『認証しました。お連れの方……走査OK。お通り下さい』
自動的に開く石の扉は、その後も何枚か続いた。
頻繁に設けられている認証機と監視カメラ。
美咲さんの声紋なくして、ここは進んでは行けない。
"約束の地(カナン)"のように僕の力で書き換えも出来なくもないけれど、ここは無難に力を使わずして、様子見に徹したい。
段々と肌寒くなってくる。
自覚ないまま、より地下へと進んできたためだろう。
薄暗い道脇に、黄色い明かりが灯されている。
地下であろうと、僕が感じられる電気の量は変わらない。
「クチュン!!」
照明に黄色い色に染まった、化けネコのくしゃみが聞こえた。
寒さなのか、埃っぽさなのか。
由香ちゃんが銀色の袋からティッシュを取出し、ネコの鼻をかませているようだけれど、タイミングが合わないらしく。
「イテテテ!!! ひっかくなって!!」
由香ちゃんは大騒ぎ。
そんな中黙々と先頭を歩き続ける美咲さんだったけれど、彼女も寒いのか手をすり合わせている。
それを見たのは本当に何気なくだったけれど、僕が眉を動かすほどに衝撃を受けたのは、美咲さんのその手が――。
「……。美咲さん。傷が治っているのは、体質?」
無理矢理その手を取って眺めれば、そこに血が滴っていたはずの重傷は…みみず腫れ程度しかなく。
「ってことは、陽斗と同じ体ってこと?」
芹霞の疑問の声に、僕が頷くことが出来ない"なにか"を感じたのは、美咲さんが青ざめた顔をして、唇を震わせていたから。
「――後天的、よ」
力なくそう言うと、僕の手だけは力強く払って、
「早く、行くわよ」
話を強制終了させた。

