あの場所には、何かがある。
もしもあそこにあるのが、怨念にも似たものであったのなら。
固定化することが出来ない流動的要素を、あの建物が凝縮して密閉しているというのなら。
"蠱毒"
その生成だという可能性が高いと思うんだ。
予想…していなかったわけではない。
東京を襲った血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)といい、約束の地(カナン)でのゲームといい…生きた人間を利用していた。
死にたくないという人間の生存本能が、蠱毒の呪術効果を高めた。
だから、ある程度は推測出来る範囲だったと言える。
更正施設に入った少年少女が蠱毒に"使われて"いたのではないかという推論は。
しかし、桜曰く…桜華で自警団に捕まった少年は、次回には自警団として現われたという。
そして増える自警団の数を思っても、更正施設に入れられたイコール"殺された"というものでもないらしい。
細かな処は判らないけれど、自警団に取られた分だけ減って、自警団員として増え…結局は東京住民としても数は大して変わりない気もする。
だとしたら、一体なにを"蠱毒"にしているのか。
それに見えない敵…姿のない自警団の存在も気になる処。
その答えが…あそこに、いやこの更正施設そのものにあるというのだろうか。
まるで山道のような、舗装もされていない道を突き進んでいた美咲さんが、ふと足を止めた。
それは汚い…人工的に古くさせた外壁が大きく見えた直前。
美咲さんはそこで、不自然に曲ったその木の幹を何やら弄ると、そこに僕は電気の流れを感じて目を細めた。
小さな…機械が、木の幹にある。
それは化けネコの手くらいの大きさで、目立たないようにひっそりと。
それに向って、美咲さんが名前を名乗っていた。
「コード№331 三善美咲」
すると何処からか、女声の機械音が聞こえてくる。
『コード№331 認証しました』
セキュリティーの応答らしい。
「それから、この子達は客だから通して」
そして美咲さんは、含んだ笑いを化けネコに向けた。
訝る僕の前で、美咲さんの唇が微かに動いた気がした。
"私の勝ちね"
と。
その意味する処が判らぬまま、女声が響く。
『了解しました。男性ひとり…走査OK』
こんな格好をしていても、男だと判るらしい。
『女性ふたり…走査OK。その他正体不明……走査不可能。危険物につき、隔離準備、5・4……』
………。
正体不明の危険物…化けネコのことらしい。
隔離?
そう誰もが首を傾げた途端、美咲さんは叫ぶ。
「早くソレを捨てて!!」
「そうはいくか!! 化けネコだからって…あっ」
「そうさ、ボクらの仲間……あっ」
「え!!? ……あっ?」
桜までもがバッグに充てられた赤い点に対して驚いた声を出した時、
「桜、飛べッッ!!」
僕の声と同時に反応した桜は、跳躍して木に飛びのった。

