そして僕の身体に抱きついてくる。



「かかかかかかかか」

「……?」


どうしたんだろう。


「何この子。痰が絡んでいるのなら…「違うわッッ!!!」


ようやく人間語を喋り始めた芹霞は、大きく息を吸って、そして怒鳴った。




「玲くんに…近寄らないで!!!

玲くんは、あたしの…

かかかかかかかか……」



……?



「うがいをしたいなら「だから違うッッッ!!!」


美咲さんの質問を真っ赤な顔で返し、そして叫んだ。



「玲くんは…あたしの…

かかかかかかか…


彼氏さんなんだからッッッ!!!」



………。



"彼氏"



これが言いたくて…

だけど言えずに煩悶していたんだろうか。


そして――。


「こここここここここ」



「ニワトリ…?「違うわ、オバサンッッッ!!!」

「お、おば…!!!?」


「よく聞きなさいッッッ!!!


玲くんはあたしの恋人なの、彼氏なの!!!

今、ラブラブ中なの!!!!

玲くんは、あたしのものなの!!!!


過去の女は引っ込んでろッッッ!!!

――おととい来やがれ!!」


そして腕を捲った右手の、中指をピンと突き立てて見せ、そしてぜえぜえと肩で呼吸を繰り返した。


………。


「言った…。

言えたぞ…。

よくがんばった、あたし…」



………。


「……師匠?」


………。


「師匠ってば!!」


………。




「玲様……顔が真っ赤……」




始まっている。

ちゃんと僕達始まっている。


そう…思って良いよね。


芹霞は妬いてくれた。

"彼女"という特別な立ち位置を、現実的に認識してくれている。



そう……だよね?

ああ、愛しくてたまらない。


どうして君はそう不意打ちでくるんだろう。

どうして……。


抱きついてきた芹霞を、ぎゅっと抱きしめた僕は…その頭上にキスを落した。


どうして、僕はこんなに芹霞が愛しいんだろう。



「ふうん…? 私、玲の付き合った女性を色々見てきたけれど…随分とレベルが下がったのね、玲…」


ひくり。

僕のコメカミが動いた。


だから僕は――


「残念だわ。貴方なら、どんな才色兼備の令嬢でも手に入るでしょうに…」



微笑んだんだ。



「僕にとっては――最高の姫です。

僕の目は、節穴ではありません」



僕の微笑みは、真実を告げる為に存在する。

芹霞に関しては。



暫く視線をぶつけ合っていたが、先に視線を外したのは美咲さんのの方だった。


「……可哀相に。

私なら…傷つかなくてもよかったものを…」


そう…唇が動いた気がした。

その意味する処が判らぬ僕は、それを聞き流してしまった。