「けどよ、その為に今、緋狭姉が苦しんでいるんだぞ!!? 緋狭姉とその黄色との間に直接何があったのかは知らないけど、緋狭姉の命かかってるんだぞ、誰かさんのせいで!!!」


それだけはどうしても忘れてはならねえ。

アホハットが緋狭姉を刺したから、"黄の印"はおかしな電子盤の模様と代わり、緋狭姉を追い詰めている。

その事実がある限り、この男と馴れ合う気はしねえ。


だからアホハットを威嚇したが、


「それを望んだのは紅皇はんや。そのおかげで、木場で…ワンワンはんや翠はん…周涅はんや雄黄はんの手から、逃れられたやろ?」


腹立つことに、まるで他人顔。


同意を求めた櫂は、深く考え込んでいるようだ。

何か解せない…そんな顔をしている。


「電子盤……」


そう呟いてから、櫂は言ったんだ。


「何故緋狭さんは…戦おうとしなかったのだろう。元々煌達を助ける為に現われたのなら、俺の知る緋狭さんなら果敢に立ち向かうはずだ」


それは俺も思う。

あの時、緋狭姉の様子はおかしかった。

敵としてではなく…、救済を目的とした出現だったことは間違いないというのに、朱貴とアホハットと…おかしな処で前打ち合わせするほどの"こそこそ"さ。


しかもその内容は…緋狭姉が瀕死になること。


「緋狭さんがこんな状態になって、確かに…煌達はあの場を乗り切り、俺は裏世界に行くことを示唆され、"約束の地(カナン)"爆破から生き残れた。しかし…別に緋狭さんが元気でもいい。

瀕死状態になったのは…何故だ? 何故あんな電子盤の背中を晒した? どうしてここに囚われた? ……そう考えれば」


まるで――。


「あの場では二択しかなかった。『完全に死ぬ』か『かろうじて生きる』か…。その選択しかないと緋狭さんが思うほど、相手の実力をよくよく承知していたということか」


そう、緋狭姉は打ち負かすことは出来ないと、判断していたようにも思うんだ。

だから突破口だけを開きにきたのではと。

それだけが、あの状況で出来る最大限の手段だったと。


あの場に居た敵は…七瀬周涅と皇城雄黄。


緋狭姉が脅威に思ったのはどちらかは判らねえけれど。


過去、戦ったことがあるんだろうか。

緋狭姉が戦いを回避するほど、二人は強いというんだろうか。

緋狭姉は個人的に皇城と確執があったのか?

それとも五皇として?