シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「緑皇!!!」

僅かに声をひっくり返しながら、慌てた玲の父親がアホハットを制すけれど、アホハットは謎めいた笑いを顔に浮かべて、静かに首を振る。


「逆境に強い櫂はんは、散乱したパーツでここまで論をたてた。前準備無しの即興や。伊達に…赤と黒の印を刻んでないということ。

紅皇はんも言ってましたやろ? "ただ聞かされるがままで坊が終わるようであれば、速攻切り捨てよ"と」


緋狭姉…。

俺らの知らない処で、地味に何俺達追い詰めてたよ?

これには櫂も苦笑い。


「"まあ…無粋で馬鹿な飼い犬のせいで、そうにもならないだろうが"」


………。


「あ、ちなみに…無粋で馬鹿な飼い犬というのは…」

「判ってるよ!! 俺を指さして言うなよ!!」


俺はいつだって、緋狭姉の予想の中。

いいんだもう。


「しかし、緑皇。守秘義務が……」

「壱はん。もともとウチは緑皇職は廃業してるんや。壱はんとの関係を絶たずにおったのは、副業ゆえのこと。五皇としてではありまへん。ひーちゃんはひーちゃんの道を、勝手に進ませて貰いま。ひーちゃんが話したいと思ったことを、話すだけや」


アホハットはあくまで"情報屋"を強調したけれど、その目を見れば判る。

氷皇にも似た…あの冷淡な眼差しは、逆に緑皇としての意思を伝えているように思えて。

こいつの元五皇としての矜持を目覚めさせたのは、


――逆境に強い櫂はんは、散乱したパーツでここまで論をたてた。前準備無しの即興や。伊達に…赤と黒の印を刻んでないということ。


櫂の頭のよさか?

それとも、緋狭姉の予言が関係していたのか?


"ひーちゃんが話したいと思ったこと"


全て話すと言っているわけではねえことが頭にくるけれど、とにかくも、多分だんまりを決め込むはずだったろう…アホハットの心は、櫂によって変化したことは間違いねえ。


「"変化"の…緑皇か…」


その変わり身の速さは、櫂も違和感を感じたのだろう。

それに呼応するように、アホハットはにやりと笑うと話し始める。

否定もせず、何故かちらりと…小猿を見てから。


「五皇には定義(ルール)が多くある。それは五皇同士互いに干渉し合わない。各々の領域に踏み込んではならない。下された命令は必ず遂行しないといけない。…ま、色々と。マニュアルはあらへんけど、暗黙としている細かいものも含めたら、100以上はある」


そんなの覚えれる五皇すげえ…。


「………。つーことは、お前も覚えたってことだよな? アホハットなのに」

「ひーちゃん、アホちゃうねん!!」

「アホでも覚えれる定義(ルール)なら、俺だって覚えれそうだな。なんだ楽勝じゃん!!」


「だからワンワンはん…「続けろ」


櫂の冷ややかな言葉で、何やら騒いでいたアホハットが、ぶちぶち文句を言いつつ、言葉を進めた。