「どんな肉体であっても、宿業(カルマ)という呪詛が遺伝子という"魂"に刻まれた限りは、苦しみは未来永劫無限に続く。
断ち切る為には、魂を変え…運命を変えるしか術はない。そして久涅の運命の環を、人工的に回そうとした。別次元にある…電脳世界の0と1の力で、呪詛を擦抜けた俺の遺伝子となるように書き換えた」
――模倣は違う種の遺伝子を自分の遺伝子構造に変えること…またその逆も然り。
「それが俺と久涅の顔が酷似する理由。
だがこの男の力では既に久涅の遺伝子改竄や『ティアラ計画』は失敗の前例ばかり。それが成功したのは…久涅が『ティアラ計画』なしに"突然変異"した理由に繋がると思う。つまり、五皇が関係していたからじゃないか?」
五皇の助力があったと?
だから玲の親父は、此処にくる必要が出たと?
なんとも結びつかねえや。
それより――。
「なあ、櫂。普通に考えて、DNA鑑定で特定人物と同じものが見つかれば、同一人物だとみなされる。それくらい、同じ遺伝子を持つものが複数いるということはありえねえだろう?
もしも存在するとしたら…似るのは顔だけではなく、その運命も同じだということか?」
それを聞いたら、櫂は嘲るように笑った。
「運命は、自分の行動で作り替えれる。久涅と俺は別個に行動し、別々の考えがある。互いが違う"心"で行動する限り、同じ運命にはならない。いや、させはしない。模倣など言わせない」
櫂は…胸元に隠れていた、玩具の指輪を手で握りしめる。
「運命の主体は…俺だ」
思い出しているのは芹霞、か…。
櫂の一途な想いは櫂のものであって久涅のものでもねえし、その逆も然り。
互いに運命の主体が自分にあることを主張しているけれど、久涅が"模倣"を言い張るのは…闇石に関したわだかまりがあるんじゃないか?
だって、第三者目線では…どう考えたって久涅の方が、櫂の模倣だから。
息を整えるようにして、再び櫂は話し始める。
「久涅が五皇の…黒皇としての力を持ち変貌するに至るのは、お前の力が及ばない、五皇に関係する"出来事"があった。
しかし、早老やイチルの呪いが解けても…更なる縛りがあった。
"黄の印"。だから"時間"が必要となり、疑似でも電脳世界の力を自分で解して利用せねばならなくなった。
それは五皇ですら、手を焼く問題だったから。どうだ?」
――お前が此処にいる理由は?
玲の父親の唇は震えていた。
それを見せまいとして噛みしめられたその虚勢が、何だか哀れだった。
「さあ…手の内見せろ」
詰め寄る櫂。
無言の玲の親父。
「櫂はん」
その時――
「そこから先は、壱はんには気の毒や」
意外にも口を挟んだのは、それまで傍観していたアホハットだった。

