「電脳世界の高次な計算力を利用出来れば、"突然変異"を通じて、総体的に人の"運命"まで解せるとした。計算から弾き出された未来の結果に、違う配置をすることが出来れば…、計算という"制御"によって、避けたい運命は作り替えられる。
だがこの男は、玲を利用しても、それを活用するだけの力がなかった。だから『ティアラ計画』は失敗した」
――0と1…あまりにも無機質すぎたから、だから表世界に、本物の電脳世界の力を引き込み利用することが出来なかった。
いつも涼しい顔をして、電気の力を使う玲の姿を普通と思っていた俺だけれど、そう出来るのは本当に稀らしい。
「だけど収穫がなかったわけでもないのだろう?
イチルの呪いを回避する別の方法を見つけた」
黙秘こそが肯定。
そう言える根拠は、玲の父親の…櫂を見る忌々しそうな眼差し。
互いに侮蔑じみた視線を向け合うのは、互いに守りたいものを相手の存在が害していると判断しているからなんだろう。
「何だそれは?」
俺が首を捻って尋ねると、櫂は口角を吊り上げて笑う。
「煌は、お前の"運命"は…何によって決定されていると思う?」
「運命…? 何だろう…。前世の宿業(カルマ)?」
すると櫂は吹き出してしまい、俺はむくれた。
――あんたがワンコじみているのは、前世できっとワンコ虐めて殺しちゃったからよ。前世の宿業(カルマ)っていう奴。あんたの現世での運命は、ワンコになれっていうことなのよ。
…って、言ってた芹霞の言葉を思い出したからなんだけど。
別に肯定してるわけじゃねえし、罪を償うなら別に俺が本当のワンコで生まれてもいい気がしたけれど、櫂に対して芹霞が公言してる"永遠の運命"という単語に対抗して、"前世の宿業(カルマ)"なんて格好よく聞こえる単語を、ちょっと使ってみたかっただけなのに…。
「悪い。いや…その意見がおかしいとかじゃないんだ。お前の口から、そんなものが出て来るとは思わなかったから…」
拗ねる俺の肩をぽんぽん叩きながら、櫂は言葉を続けた。
「過去に自分が起こした業…宿業(カルマ)によって現世の宿命が決まり、現世での行いによって来世の宿命が決まる。それは過去から未来へ延々と続く…それが仏教で言う因果応報、そして輪廻の思想だ。
つまり体は滅んでも魂は滅ぶことなく、未来の新たな肉体に移行し続けるという点では、藤姫もある種…同じ。肉体を変えることを、新たな別の人生と捉えるか、自分の人生の延長だと捉えるかの違いだけだ。
人生という運命を決定させるのが宿業(カルマ)だというのなら、肉体を変えても宿業(カルマ)は延々続いていく。…贖い終わらぬ限り。
肉体とは別次元に運命を左右させる"原因"があるとすれば、人間の魂は…別次元のその"なにか"によって故意に動かされた、"運命の環"に囚われて生きているということ。
では魂は、何をもって宿業(カルマ)とみなすのか。何処にその情報が刻まれ、人生という舞台が用意されているのか。
それが人間における核とでも言うべき…遺伝子だと、この男はみなした。即ち、遺伝子=魂と」
玲の父親が何も答えない処を見れば、そうなんだろう。
遺伝子至上主義者が辿り着いた結論は、魂か。

