「何で計算が予知になるよ? 1+1の答えで、何で未来が判るよ? 数学やってりゃ、未来が判るのか? そんなに凄い奴だったのか?」
どこからか、
「数学…すげえ…」
という声が聞こえたのは、多分小猿だろう。
俺の心の声が漏れたわけではねえと思う。
「確かに"1+1=2"というものだけを見ればただの数字の羅列。そこに未来という時間は関係していないようにも思えるだろうが、これを文章題にしてみろ。
例えば"家に友達がひとりいて、暫くしてもうひとり遊びに来た。全部で何人分のジュースを用意すればいいか"
そんな文章題があったとすれば、友達がいるという事実は、過去或いは現在の事象。そしてジュースを用意する行為は、未来の事象。それをイコールで結んだ"1+1=2"という計算によって、俺らは具体的な未来の行動を知ったことになる」
おお、見方を変えれば、なんだか魔法みてえだ。
そう考えれば、俺…数学が好きになるかも。
……計算出来るかは別問題として。
「算数に"出会い算"というものもある。二人の旅人がそれぞれ歩いて出会う為には、どれ位の速度でどの方向にいつから歩けばいいかという…ああ、煌。一応…小学校でやった…覚えはお前にはないか。まあいい。
後は物理の計算もそうだな。未来の予測結果を返す為に、計算式を利用しているものは沢山ある。ただそれはあくまで人間が考えられる範疇においてのものだ。
現状知り得ない…予想出来ない"偶然"の事象が加味された場合の、リスク回避はその計算式には表わせられない。
しかしそれは人間の意見。もしも人間の知能を遙かに上回る知性や計算力を持つなにかが、独自の計算式を持っていたのなら、確定的な未来を計算出来ているのかもしれない。…この男は、それを電脳世界とみなした。
つまり予測出来ない"突然変異"を解するためには、電脳世界の高次な計算能力が必要だった…ということ」
玲の親父から、やはり否定の言葉はなかった。
「玲曰く…電脳世界には、人間と同じような意思があるという。それが人間の知能を超えた高次な計算をすれば…単調な人間界において、人間がどう動くかくらい…その心の動きに至るまで、事前に計算で判ってしまうのかもしれないな。
だけどこれはあくまで、希望的観測。電脳世界を知らない俺達にとってみれば、電脳世界の有様について断言は出来ないが、少なくとも玲を見ている限りにおいては、玲は電脳世界の威力を理解しているからこそ、日頃電脳世界に敬意を示すんだろう。人間を超えた世界として。玲は電脳世界に一番近い存在だ」
「まあ…あいつは特殊だからな。最初はなんだこのオタクと思ってたけれど。けど…未来の"突然変異"を計算出来たとして何だというよ?」
俺にはそこがよく判らねえ。
「世界支配でも、目論んでいるのか、玲の親父」
話の流れでは、どうしてそこに至るのかさっぱりだけれど。
「そんな大仰なものではない。運命を変える為だ」
ぴくり、と玲の親父が反応した。

