シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「人工生命は人間の生命を模したもの。生死、増殖、突然変異…その生命の辿る成長と進化過程を、コンピューター上で"再現"させて解析しようとする試みだ。

そして更に『ティアラ計画』では、『ティアラ』の頭文字にするくらい、複製、模倣、寄生というものを重要視しているのだろう。それを遺伝子と結びつけて推測すれば…。

「複製」は自分の遺伝子構造のまま増殖させること。

「模倣」は違う種の遺伝子を自分の遺伝子構造に変えること…またその逆も然り。

「寄生」は遺伝子が、違う種の遺伝子に取り憑き生きること。取り憑かれた遺伝子が弱まっていくのか、別個に存在出来るのかはケースバイケースになるだろうが、結局はこれらどれを取ってみても様々な…複数あるものの"共存"または"共生"を試みているような気がするんだ」


………。

駄目だ。


俺もあそこで、小猿の掌で眠り始めたチビリスと小小々猿と同じレベルだ。

いや…人間様として、目を点にして呆けている小猿くらいは昇格したい。


口にださねえ俺の思考は、苦笑する櫂にはお見通しだったらしい。


「まあいい。とにかく、久涅という単体の遺伝子に別の遺伝子を取りいれ、共生または融合させようとしていたのだと思う。そうして、久涅の早老し死滅する遺伝子の生きる"時間"を延そうと」


「それに選ばれたのが玲?」


櫂は頷いた。


「久涅の遺伝子の穴を、電脳世界に通じる玲の遺伝子を軸に作り上げた人工生命で補強しながら、外部的に制御できるようにもしたかったんだろう。

そして同時に玲の遺伝子を媒体にして、電脳世界の力を引き出すことを期待してもいた…な。電脳世界の…その高次な計算力を」


「何でそこまで…」


そう唇を戦慄かせたのは玲の親父で。

櫂などに真実など判る筈がないと思い込んで、「情報を欲しければ平伏せ」と言わんばかりの高飛車なあの余裕はどこへやら。

そうした態度をむけられたからこそ、櫂の矜持にかけてその頭脳がいつも以上に働いたんだろうけれど、あの理不尽な選択を突き付けられた原因を作ったのが俺だと思えば、何とも複雑だ。

櫂は続けて言う。

「人工生命で生命を解析出来…、0と1の計算式にて解ける公式…定義(ルール)を見つけて、計算させることが出来たなら。

生命の奇跡的事象である…"突然変異"の時期も程度も、あらかじめ予測してパターン化することも可能だ。未来予知が可能になると」