「此処のシステムは…何処か"約束の地(カナン)"を彷彿させる。奸計の…いや、叡智の白皇の入れ知恵があったな?」
男は答えねえ。
ただその顔を見れば、答えは判る。
「この男は、遺伝子研究に詳しくとも、玲のように機械従事者ではない。それがこれだけのシステムを構築し、情報を仕入れることが出来ているのは…白皇の協力があったからだろう」
俺が図星指されてとる態度以上に、判りやすい。
「しかし何でまた、白皇を含めた五皇が、この男に協力なんか…。メリットが判らねえ。五皇はそこまで暇なのか?」
そうアホハットを見れば、アホハットは肩を竦めて、わざとらしく笑ってみせる。
……何か意味があるらしい。
「必然…事項か…」
馬鹿な俺でも、それくらい感じ取れる。
櫂は、動揺した顔を向けたままの玲の父親に、言った。
「頓挫した『ティアラ計画』に代わり、此の世界から電脳世界を利用しようとすることが久涅救済に必要だったとして、既に"突然変異"をしていた久涅を…何故なおも救済しようとする?
お前が求めた救済策が"時間"というのなら、それは久涅の"突然変異"を直接的な理由とせず、それでもやはりまだ久涅に必要なもので、更に"別次元"において意味をなすものだということ。
その"別次元"を求めた先には五皇が関わり、尚且つ久涅が五皇であるなら、此の場所は五皇に関わる場所だと言わざるをえない。そして久涅に必要な"時間"もまた、五皇に関わるものだと」
男を見据えながら、櫂は断言する。
「つまり、互いにメリットがある…相利共生の関係だ」
この男が久涅の為にと、"別次元"を利用して求めた"時間"は、五皇にとっても欲しかった情報…ということか?
それは久涅が五皇のひとりとなったから、他四皇と同じく必要になった…ということなんだろうか。
「なんやワンワンはん」
「自由気儘な五皇が…救済策を求めていたのか?」
「五皇は自由ではあらへん」
いつも通りおちゃらけた顔で軽い口調なのに、声音に見え隠れするのは…まるで怒気。
それは緋狭姉も縛られている"黄の印"が理由だろうか。
こんなチャラい奴から、少しばかりぞっとするものを感じた俺は、空気を変えねばならねえ妙な危機感を感じて、櫂に違う質問をしてみた。
「なあ…失敗した『ティアラ計画』の"突然変異"もそうだけど、何で必要となるのが電脳世界と玲よ?」
「俺は、『人工生命』理論の詳細はよく判らないが、概略だけで推測するのなら――」
櫂は…ある程度予想がついているんだろう。
あとはその推論の確証を証明するだけ…そんな様子に思える。
だから質問形式ではなく、櫂は意見を述べることで…玲の親父やアホハットの反応から、是か否かの反応を見ているのだろう。
こいつはこいつなりに、あの苦悶した表情の間に色々考えたんだ、それは俺には真似出来ねえ超速度で、頭が回転していただけのこと。
つまり、俺と同じ情報量で色々幅を広げて考えられる櫂は、すげえということで。
やっぱ俺は、ただの体力馬鹿を貫くしかねえということで。

