玲の父親は、櫂と目を合わさないようにして言い始めた。
「力不足が理由。しかし第一の理由は…電脳世界と表世界の次元があまりにも違いすぎた。電脳世界が…あまりにも不可解すぎた。うまく利用出来れば、表世界で得られない"突然変異"を期待出来るのに、それを融合出来なかった。
人間には"心"がある。電気には"心"がない。私には、電気の源の世界を力で統率出来なければ、仕組みを理解することも出来なかった」
おや…?
玲は…0と1には意思があるとか言ってなかったか?
だから機械語が話せるんじゃ?
大根好きと機械語理解が、俺にとって玲の二大謎だ。
「煌。玲は特殊なんだ。力は…父親に勝っていた」
「でも…裏世界が必要だったということは、玲の力でも無理だったワケだろ?」
「この場所が人間の心の根底にあるのなら、そこに電脳世界の力を取り込めば、融合した新たな世界として、久涅に必要な"時間"を支配出来る…そう思った。だから私は早々に表に見切りをつけたのだ。久涅に必要ない世界を」
やはり第一は久涅か。
「ならば――」
突然櫂は言った。
「何故、その久涅を表に置いて…お前ひとりがここに来た? 久涅を理由にするのなら、一緒に来て然るべきだろう」
「え…何で置いてきたって判るよ?」
「夢路が言っていた。此処に『妖蛆の秘密』を持って現われた久涅は、既に今の姿になっていたんだ。ということはこの男の力がなくても、表で変貌したということ。もしもこの男が、"時間"を支配したい…それで疑似電脳世界を作ったというのなら、それは久涅が理由ではない。別の思いがあったからだ。
――それは何だ?」
しかしそれについては、男は口を開こうとしねえ。
アホハットがよく言っていた"黙秘権"行使かよ。
「では言い方を変えよう。此処に行き着く為には"案内"が必要だ。仮にお前が、当時無秩序だった此処に"偶然"に行き着いたとしても、此の世界の住人に五体満足な表の人間が受入れられるのは、容易くない。
お前は何を持って、ここの住人に認めさせた? お前より力のある玲とて、ここの世界のシステムは一瞬では作れない。紫堂の力で制圧すれば反発されるのは目に見えている。受入れられた理由があるはずだ」
更にだんまり。
「カリスマ久涅様の派遣じゃね?」
俺の言葉に、櫂は薄く笑う。
「この世界を秩序付けることが、この世界残留の為に呈示した条件だったとしてもだ。此処には…五皇の影がやけに多い。
囚われの紅皇、案内させた氷皇、そこにいる緑皇。此処に現われた久涅が変貌して無効の力を持っていたのなら、出来すぎだよな。例え父親とはいえ、お前が呼び寄せたのもまた、五皇のひとりなら」
切れ長の目は、鋭く光る。
「ならば…当然、白皇の影もあっていいよな」
玲の父親の肩が、びくりとしたように思えた。

