櫂は目を閉じ、深い苦悶の表情を顔に浮かべて、悩んでいる。
「くっ……」
櫂に選択させるのは酷すぎる。
だって櫂は…全てを救う為に、強くなろうとここまで来たんだ。
死んで、絶望して。
そこで終焉を迎えず、前に繋げるために。
どれだけ苦しんできたんだよ。
どれだけ声を上げて、こいつは泣いたよ。
助けられる者と、助けられない者。
そんな結果を望んで、そんな中途半端な覚悟で裏世界にきたわけじゃねえ。
櫂の覚悟は、俺がよく判っている。
だからこそ、触発された俺もここに来たんだ。
情報を得られませんでした。
だからすごすごと引き返してきました。
そんな結果にだけは、絶対したくねえというのに!!
「選べれないのなら、この話は終わりだ」
俺のせいだ、絶対俺のせい…。
どうすればいい?
どうすれば……。
………。
元凶は俺だというのなら。
俺がなんとかしなければならねえんじゃねえか?
俺…なに櫂任せにしようとしてるよ。
俺がしでかしたものは、俺が責任とらなきゃなんねえだろうよ。
それが"漢(オトコ)"ってもんだろうがよ。
口だけで終わるのなら、俺が玲の親父を非難出来ねえじゃねえか。
態度で見せろ、心を!!
「煌」
前傾姿勢になろうとしていた俺を、櫂の手が阻む。
「頼む。俺に全てを任せてくれ」
目を閉じ苦悶したままの櫂。
櫂の手が、俺の腕を掴み意思を伝えてきた。
何もするなと。
「お前が…全てを背負うことねえよ!! 俺が…「煌」
櫂はもう一度俺の名前を呼び、ゆっくりと目を開く。
「俺を誰だと思ってる?」
そこにあるのは…不敵な眼差し。
「貪欲な俺に…妥協はない」
俺が崇拝する『気高き獅子』。
ぞくりとしたのは…まるで歓喜。
櫂は崩れちゃいねえ。
崩れるような男じゃねえ。
玲の親父の顔が、僅かに不快そうに歪んでいた。
「たったひとつ。必ず、真実を教えてくれるんだな?」
「ああ…」
真っ直ぐな漆黒の瞳に、やや押され気味になりながら、男は頷く。
「情報屋。いや…緑皇」
「なんや」
「元…だろうが、五皇の名にかけて、今の言葉の証人になって欲しい。念のため」
「なんや、面白そうやないか。ええぞ~」
アホハットは、快く承諾する。
それを受けた櫂は僅かに微笑みを返し、そして再び玲の父親に向き直った。
「ならば――
俺が聞きたいことはひとつ」
しんと静まり返った中に、櫂の声が凛然と響き渡った。
櫂が選んだのは…何だ?
「お前は、何故ここにいる?」
そう、玲の父親に向けて言ったんだ。

