シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「他には? 何か気づいたことはない?」

あたしはうんうん唸りながら、必死に思い出そうと頑張った。

けれど夢のような記憶というものは、普通の記憶ともまた違い、朧気で儚げで…こっちが必死においかければ逃げていく。


もどかしいくらいに、記憶という形にならない。


思わず嘆きの溜息をついて、コメカミを押してマッサージをした時、


――これは、魔方陣よ?

脳裏にイチルらしき少女の言葉が蘇った。


……うん、言われた。

地面に模様がついているのを不思議に思ったあたしに、たしかにイチルはそう言ったんだ。


記憶は、こちらの意思とは無関係に、ふいに蘇るものらしい。

ぽろぽろ、ぽろぽろ。

何が引き金になったのか、断片的にだが思い出すものがある。


「なんか…魔方陣みたいのがあった。あ、そうだ。イチルが魔法を見せてくれるっていうからついていったんだよね、元々。そうそう、墓場!! 雑司ヶ谷みたいに、墓場にも犬の死骸があって。待ち合わせは夜の公園だったんだけど、"ぴぎゃあああ"を聞いたから、そこに行ってみたら墓場だったの。ほら桜華でも聞いたでしょう、煌がエイリアンと言い張ったあの変な声。まさしく、あれみたいな感じ」


桜ちゃんは顔を歪めた。


「お、なんか連鎖的に思い出してくる。大根もあった、犬の死骸の近くに」

「大根……」

「そう、玲くんが好きな大根に足が生えたような感じの。頭は葉っぱ、体はナイスバディな…ちょっとやらしく、くねくねした…女の大根。まず、料理には向いてない。気持ち悪くて食べたくない」


玲くんも顔を歪めた。


「しかも犬の死骸の近くに。変でしょう、夢みたいに突拍子もないよね。……それは夢なのかな」


「………。玲様、櫂様なら何か記憶してるでしょうか」

「ん…。櫂の記憶力はいいとはいえ、大分昔のことだしな…」


カイカイは紫堂櫂である。

だからあたしは、紫堂櫂と共にイチルに会っていた。


ようやくあたしが認識出来たことを、夢も知らない皆は、それが当然のこととして話を進めている。

それくらい、あたしと紫堂櫂は仲がよかったのか。

紫堂櫂に対する罪悪感は増すばかり。