「凱…雅もまた、虚数で威力を増す新たな武器を持っていたんだ。今思えば、それは僕に関係しているような口調だった。
そして芹霞のおかげであの場を凌げたはずだったけれど、ヘリが飛び立つ時、凱は手を振って僕らを見送っていたんだ。
意図あって"見逃した"、とでもいうように」
悔しそうに端麗な顔は歪まれる。
「だとすればあの時点で、見えない敵を引き連れて、さらに新種の武器まで披露してまで現われた凱の目的は、僕の捕獲ではない。誘導だ。"約束の地(カナン)"へと」
「何のために?」
あたしの質問に、玲くんは苦しそうに目頭を押さえる。
苦悶の美少女も…ああ、なんて素敵。
「……。"約束の地(カナン)"では僕捕獲の動きはなかった。あったのは、"約束の地(カナン)"の破壊。僕がしたことは…櫂を傷つけ、裏世界に送ったことだ。僕は櫂が居た"約束の地(カナン)"を守れなかった。それを見越されていたというのなら、此程の屈辱もない」
胸が詰まるような声色に、あたしは言葉が出なかった。
"櫂を傷つけ"
紫堂櫂を傷つけたのはあたしだ。
玲くんは、傷つけることなんて何もしてなかったじゃないか。
むしろ紫堂櫂との再会をお互い喜んでいたじゃないか。
あたしなんだ。
紫堂櫂を傷つけたのは。
――芹霞!!!
紫堂櫂の絶叫が頭から離れない。
謝りたい。
彼を忘れていたあたしの馬鹿さ加減を。
そして許されるのなら、また…友達になりたい。
"カイカイ"の時のように。
「そして何も出来ずに僕は東京に帰った。すると急転直下。破談に向けて事態は好転するはずの皇城との婚姻話は、紫堂本家に直接乗り込んで来た皇城雄黄公認の、"紫茉ちゃんとの間に子供を作る"こととより具体的になり、僕の意思は無視され状況は最悪だ」
玲くんがあたしを見る、切なげなその眼差しに胸が痛いや。
「櫂のことを抜きにして、僕自身にとっては、"約束の地(カナン)"に行ったからこそ芹霞を手に入れた。それは破談の切り札でもあった。それが功を奏せず、追い込まれる形となった。凱が僕を誘導したかったのは、どちらについてなんだろうか。僕は…誰の思惑通りの動きをしているのか。誰の道具たりえているのか」
「ねえ、玲くん。もしあたしが玲くんの、か、か、…」
「ぺっ、するかい、神崎」
「痰なんて絡んでないってば!! か、か、"彼女"サンになっていなかったら、玲くんどうなってたの!?」
「君を諦めて…僕は道具として、"なに"に成り果て、"なに"を作りだしていただろうね」
切なく笑う玲くん。
「因果応報。罪は…巡り巡るから。それは今も同じ事だけれど」
決断というものは、人の運命を左右させる大変なものだということを再認識した。
あたしの決断で、救われる者がいた。
それだけは嬉しいけれど…同時に、思わずにはいられない。
救われなかった者はいるのだろうかと。
それは――?

