シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「凱…雅もまた、虚数で威力を増す新たな武器を持っていたんだ。今思えば、それは僕に関係しているような口調だった。

そして芹霞のおかげであの場を凌げたはずだったけれど、ヘリが飛び立つ時、凱は手を振って僕らを見送っていたんだ。

意図あって"見逃した"、とでもいうように」


悔しそうに端麗な顔は歪まれる。


「だとすればあの時点で、見えない敵を引き連れて、さらに新種の武器まで披露してまで現われた凱の目的は、僕の捕獲ではない。誘導だ。"約束の地(カナン)"へと」


「何のために?」

あたしの質問に、玲くんは苦しそうに目頭を押さえる。

苦悶の美少女も…ああ、なんて素敵。


「……。"約束の地(カナン)"では僕捕獲の動きはなかった。あったのは、"約束の地(カナン)"の破壊。僕がしたことは…櫂を傷つけ、裏世界に送ったことだ。僕は櫂が居た"約束の地(カナン)"を守れなかった。それを見越されていたというのなら、此程の屈辱もない」


胸が詰まるような声色に、あたしは言葉が出なかった。


"櫂を傷つけ"


紫堂櫂を傷つけたのはあたしだ。

玲くんは、傷つけることなんて何もしてなかったじゃないか。

むしろ紫堂櫂との再会をお互い喜んでいたじゃないか。


あたしなんだ。

紫堂櫂を傷つけたのは。


――芹霞!!!


紫堂櫂の絶叫が頭から離れない。

謝りたい。

彼を忘れていたあたしの馬鹿さ加減を。


そして許されるのなら、また…友達になりたい。

"カイカイ"の時のように。


「そして何も出来ずに僕は東京に帰った。すると急転直下。破談に向けて事態は好転するはずの皇城との婚姻話は、紫堂本家に直接乗り込んで来た皇城雄黄公認の、"紫茉ちゃんとの間に子供を作る"こととより具体的になり、僕の意思は無視され状況は最悪だ」


玲くんがあたしを見る、切なげなその眼差しに胸が痛いや。


「櫂のことを抜きにして、僕自身にとっては、"約束の地(カナン)"に行ったからこそ芹霞を手に入れた。それは破談の切り札でもあった。それが功を奏せず、追い込まれる形となった。凱が僕を誘導したかったのは、どちらについてなんだろうか。僕は…誰の思惑通りの動きをしているのか。誰の道具たりえているのか」


「ねえ、玲くん。もしあたしが玲くんの、か、か、…」

「ぺっ、するかい、神崎」

「痰なんて絡んでないってば!! か、か、"彼女"サンになっていなかったら、玲くんどうなってたの!?」


「君を諦めて…僕は道具として、"なに"に成り果て、"なに"を作りだしていただろうね」

切なく笑う玲くん。


「因果応報。罪は…巡り巡るから。それは今も同じ事だけれど」


決断というものは、人の運命を左右させる大変なものだということを再認識した。


あたしの決断で、救われる者がいた。

それだけは嬉しいけれど…同時に、思わずにはいられない。


救われなかった者はいるのだろうかと。


それは――?