「虚数と言っても…感じ取れるのは玲くんや…クオンだけだよね。まあ…クオンは化けネコの聴覚を持っているけれど…」
あたしの笑い声に桜ちゃんが呼応した。
「聴覚…。虚数といえば黒い塔もそうですが…塔の発生時には、煌や皇城翠も耳を押さえてました。まあ…あの二人は、犬と猿ですけれど…」
「アニマルズを外したら、人間様で虚数というものを感じ取れるのは、師匠だけだよね」
由香ちゃんの言葉に、玲くんは溜息をつきながら気怠げに言った。
「相手が見えないということは、"気"を読める僕らにとって然程問題はない。目に頼らねばいいだけだ。
だが武器に関しては、虚数の副産物たる爆発をメインにしているわけではなく、直接虚数で象られたものをぶつけにきている。変化球ではなく、直球勝負だ。
虚数の脅威さを知り、影響を受けれるのが僕だけだと考えれば、虚数で攻撃する意義は僕に有効だから…の線が濃厚だな」
「玲様を追い詰める、ためでしょうか?」
「ん……。都度なんとか切り抜けてはいるけれど、その虚数という武器故に、やばい場面は何度もあった。しかし虚数の開発が僕の…殺傷目的とは思えないんだ。僕は電脳世界が判る特殊な人間かもしれないけど、不死身じゃない。しかも心臓病もある。そんなご大層なものを持ち出さなくても、違う方法でも追い詰める効果はあるんだ。
僕が切り抜ければ、次にはまた違うものを持ち出される。何と言うか…武器としての威力より、より精度の高い虚数を応用開発してはぶつけてきている…そんな気がする。
捕獲や殺傷目的のように装って、実は僕は、虚数武器開発の実験台、もしくは…それを扱う見えない敵の鍛錬の道具に使われている気がするよ。裏では、それを含めて様々な目的を持った、生身の人間の意思があるんだろうけれど。どちらにしても、僕は…誰かに使われている見えない奴らにとっても、道具ということ。道具の道具さ!!」
怒りの混ざったような玲くんの声音に、あたし達は言葉が出てこなかった。
「僕が死んで初めて、虚数の威力が証明され、開発研究は終わるだろう。僕が生きている限り…あの見えない敵と武器と、戦い続けるような気がする。延々と」
武器を鍛える為に、玲くんが敵と戦っているの?
「何で玲くんがそんなことの為に、危険に晒されなくては駄目なの? 誰が玲くんを……」
「………。僕は二度目の次期当主となった時、連日紫堂に実験され、詳細データをとられていた。それがもし、この件に関係しているのだとすれば」
玲くんは儚げに笑う。
「僕は…売られたのかもしれないね。紫堂にとってはそんな価値しかない。まあ…今更、驚きもしないけれど」
もしも玲くんの推測通りであったのなら、此程まで酷い生家もない。
だから願わずにいられない。
どうか、玲くんの推測が外れてくれますようにと。

