「本人は元老院の前で疲れたからと、すぐ退室してしまったらしい。闇の力を元老院に披露したこと自体、覚えているのかどうかも怪しい。噂に聞けば、その後の白皇の慌てぶりは傑作のようだったが…」
………。
「藤姫は、久遠には興味を示さなかった。怒りすらも覚えなかったらしい。寸劇を見せられたような気分だったのだろう。或いは…完璧を好む彼女にとって、歪な久遠の性格がお気に召さなかったのか」
何だろう、この残念感…。
顔を手で覆いたい気分だ。
ある意味…お前のマイペースさは最強かもしれない。
その点は、心より認めてやる。
「そこで藤姫を始めとした、元老院の怒りの矛先が紫堂に向いた。久遠に出来て、紫堂に出来ないとはどういうことだと。折角今まで元老院に媚びへつらってきたのに、紫堂の…存続審議にまで発展した」
久遠…。
――…何。
お前…を責めるのは筋違いなんだろうか。
「丁度その時だ。生まれていたお前の守護石選びの儀式の際、お前は久涅から転がりおちた血染め石に極度の反応を示し、闇の力を見せてみせた。無論統制など出来ることなく、暴走する前に匡が抑えた。そしてその潜在能力を見た匡は、石をお前に与え、ふたつにわけ…そこからはお前の方が詳しいだろう」
俺は頷いた。
奪い取ったのか、俺が久涅の石を。
「しかしだとすれば、久涅は――?」
紫堂的に言えば、石を奪われた久涅は弱者となる。
弱者は紫堂から追放され、最悪は――。
「かろうじて生きていた。ただそれだけだ」
男は、憎悪に満ちた目を俺に向けた。
「俺が…久涅の人生を狂わせたから、久涅は"模倣"だと…」
しかし男は薄い笑いを顔に浮かべ、否定する。
「久涅がお前を恨んでいるとすれば、そこが第一の理由ではない」
「では……?」
「10年前。お前が、久涅の運命を狂わせた」
「10年前…?」
「お前は…何を願った?」
「え?」
「誰かの運命を代償にして発動する黒魔術で、お前は何を?」
「黒魔術?」
「黄幡一縷に、何を願った?」
――ねえ芹霞、カイカイ。"魔法"を見せて上げる。
頭に聞こえてくる少女の声。
ああ、これは…。

