シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




話はそれで終わるわけはない。

俺と久涅が遺伝子異常だからと言って、同じ顔で別個に存在する理由にはならない。

久涅が血染め石の正当な所有を主張し、"模倣"と言いながら俺を憎んでいる理由にもならない。

そして玲の立ち位置も、いまだ不明だ。


「遺伝子異常と言っても、肉体的な変質…所謂"奇形"として発現されているわけではない。寧ろ外見上の肉体の機能は正常だ。私が言っているのは、もっと内部の…遺伝子レベルにおいての問題だ」


男は続ける。


「遺伝子異常…それは、遺伝子を構成する塩基配列の組み合わせが違うという単純な理由だけに留まらない。異能力者だけが持ち得る特有の…特殊遺伝子が、稀にだが…普通の遺伝子を、肉体を作る細胞を必要以上に活性化させ、摩耗させてしまうことがある。久涅は更に、新たに生まれる細胞よりも死滅する細胞の方が多く、10代で寿命を迎える可能性が高かった」


普通人と同じ時間の流れにいながら、倍以上の速度で成長する遺伝子。

それを持つ者が、紫堂だけと限定しないというのなら、その時の流れこそまちまちで緩やかなれど、藤姫や"約束の地(カナン)"における久遠の元家族も同様で。


つまりそれは――。


「早老…か」


すると今まで黙っていた煌が、過敏な反応を見せた。


「え、櫂はそうろ…「煌。年老いる意味の"そうろう"。頭の中で違う漢字に変換するな」

「あ、え…ああ…。老ける方かよ…。俺、反応に困ったじゃねえか」


……よかった。

真っ赤な顔で、哀れんだ眼差しすら見せた煌に、先に訂正しておいてよかったと思う。


玲の顔をした男は…不愉快そうな顔つきをして話を続けた。


「紫堂は近親婚まではないものの、その特殊な血を残す為に同族婚を繰り返してきた。そのツケというべき、劣性の因子は下地にある。その上で、例えばがんのような後天的な組織部に限定した遺伝子異常であるならば、その患部に修復遺伝子を注入するなどの遺伝子治療をすればいいが、久涅の場合は遺伝子の…DNA自体に異常を起こした特殊因子が元凶だ。つまり体全体における遺伝子から、該当する元凶遺伝子だけを選んで"改竄"することも、除去することは不可能」


それでも…俺も久涅もきちんと生きている。

普通の時間を刻んで生きていられるのはなぜだ?


「櫂、お前は…久涅と同じ遺伝異常とはいえど、少し意味が違う。異能力者特有の遺伝子をα遺伝子と呼ぶのなら、お前は普通の遺伝子の他に、そのα遺伝子の力を抑える…Ω遺伝子というものが、ごく少数だが存在していた。即ちそれは」


そして、すっと目を細めて続けた。


「α遺伝子の力を打ち消す、そう…"相殺"の力だ」


と。