「ライネ!」
きつく声を掛けられ、ライネは我に返った。
確かに…ユフィの姿を借りて現れた以上、ライネが決着をつけるべきなのだろう。
彼はシルヴィアから剣を受け取ると、ミリアをそっと横たえた。
「ごめんね…」
意識がないのか、浅い呼吸を繰り返すミリアの頬を優しく撫で、ライネは立ち上がった。
「魔女アルバータ…」
「…あハハ…らいね…アイシテル」
狂った笑い声を上げながら、魔女が手を振り上げる。
ライネを掴もうと伸ばした手から、腐りかけた肉がぼとぼとと落ちていく。
「何故ユフィの身体を…」
「オ前タチガ、悲シイ、嬉シイ」
「ユフィもお前が…?」
ライネが剣を握りなおしながら問う。
魔女はぐらぐらとしながら頷いた。
「ソウダ…コノ女ハ絶望シナガラ死ンダ。コノ世界ヲ呪イナガラ。ソレガ私ノ力ニナル」
「何故ユフィの身体を使っている」
「私ハ、オ前タチに触レヌ。ダガ、コイツハ違ウ」
ゆっくりと歩くたび、ユフィの肉体であったものは崩れ落ちていく。
ライネはそれでも、動く事が出来ない。
「ライネ!」
再びシルヴィアに声を掛けられる。
ライネはちらりとシルヴィアのことを見つめると、すぐに魔女に向き直った。
「ごめん、ユフィ。愛してた…」
ライネは言うと、駆け出した。
突然のことに、魔女は明らかに狼狽したようだった。
ライネはユフィを壊せない、と思っていたかのような。
肉を切った感触はしない。乾いた、虚しい感触。
まるで最初からそこに、ユフィの肉体などなかったかのように。
「ヤ、ヤメ…」
それ以上魔女は続ける事は出来なかった。
剣が深々と刺さると、その刀身からまばゆい光が溢れる。
眩しさのあまりライネとシルヴィアが目を閉じた。
「…くそ」
二人が目を開くと、そこには何もなくなっていた。
剣は相変わらずライネの手におさまっていたが、粗末な剣だったものが、見事な装飾のされた剣に換わっていた。
刀身に精密な彫り細工が施された剣に。
「終わったか」
背後から声が掛かり振り替えると、そこにはディモンが居た。
さして興味もなさそうに、ライネの持っていた剣を見つめる。
「…最初から、こうなることをわかっていたのか?」
シルヴィアが尋ねると、ディモンは肩を竦めた。
「まさか、そっちのお嬢さんを狙うとは思ってもみなかったが」
「…!ミリア!」
ライネは剣を投げ捨ててミリアに駆け寄ると、その手をそっと握った。
「大丈夫だ、急所は外れている」
シルヴィアが言うと、安堵したようにライネはミリアを抱きしめた。
「よかった…」
「この剣は私が責任をもって保管する。いいな」
ディモンは無感情にそう言うと、軽々と剣を持ち上げた。
シルヴィアもゆっくりと立ち上がると、そっとライネを振り返った。
「…ミリアを部屋に運んでやれ。それから、医者を手配する。お前はそのままついていてやるといい」
そういうと、彼女は颯爽とその場から去っていった。
ディモンもこれ以上はここに長居するつもりはないようで、剣を持ってシルヴィアの後を追った。
ライネだけが、ただミリアを抱きしめたままそこに残った。