「なら、すっげー“良い母親”なんだろうな」
その言葉の裏を言うまでもない。
「もう二度と関わるなって、聞いてねえのか」
「お節介を侮ってはいけませんよ。付きまといます――辛そうだから」
冷静で賢い、そんな風に渉を見ていた犬童ではあるが、事実は違う。
非力なくせして修羅場に自ら足を踏み入れるだなんて、冷静も賢明もない。
犬童を止め、ここまで連れてきたことでさえ、風当たり云々と計算したわけではなかった。
「辛そうだった」
それに尽きると、繰り返されたことでも、犬童は分からない。
――分かりたくなんかない。
「何にも、知らねえくせに」
でしゃばったと悪い言い方ができないのは、助けてくれたから。