「……、ぇ」
非力、だった。
「はあ?」
殴った男でさえも、その非力さに、肩透かし。防御の手もあげず、サンドバッグのように突っ立っていた渉は、壁際まで飛んだ。
「ぐぅ……」
くぐもった声をあげるからには、痛いはずなんだ。
(助けに来たんなら、一発かませよっ。『力を秘めた主人公設定』とかでさぁ!そんな、よわよわのくせして、なんで――)
助けるの?
「ダセぇな。あ、悲鳴あげられる前に、口やっとくか」
「や、め……!」
いいように殴られる渉。無惨に成り果てたその顔が出来上がるまでに、立ち上がろうと地を引っ掻く、犬童の爪が剥がれた。
それと同時。
痛みが狂った神経回路を巡り、正常に戻す。
一種の荒療治。
まだまだ万全とは言えないが、ランドセルについていた防犯ブザーを鳴らすことが出来た。


