――――――――空には三日月。
少し開いたテラスからは冷たい風が肌を撫でるように入ってくる。風が通るたびにヒラヒラと波打つカーテン。
さっきまでの濃密の時が幻であるかのように静まり返った夜更け。
隣では愛しい人が眠っている。
忙しいスケジュールの中、無理に旅行のために時間を作ってくれたのだろう。
きっと、すごく疲れているんだろう。
ゆっくりと休んで欲しい。
そう思いながら、課長を見つめる。
長い睫毛。通った鼻筋。サラサラの黒髪。筋肉質な体。誰が見ても整った端整な顔立ち。
男の人なのに滑らかで綺麗な肌。
呼吸に合わせて上下する課長の胸元にそっと耳を置く。
ドクンドクンと規則正しく刻まれる心臓の音が心地いい。
ゆっくりと瞼を閉じて、課長のぬくもりを感じる。
このまま時間なんて止まってしまえばいいのに。
ずっとこのまま、課長の腕の中にいたいのに。
別れたくなんかないのに。
課長のそばにいたいのに。
無情にも時計の針は、一秒一秒時を刻んでゆく。
課長を起こさないようにベッドから抜け、バスローブに袖を通してテラスの方へ歩を進める。
夜風に当たりながら、ホテルに備え付けのレターセットを前に月を眺めれば...無意識に流れ出る涙。
涙の滴が頬を伝う。
涙を拭いながら言葉を綴り、手紙を書き終えた私。
あと数時間で夜が明ける。
朝になれば、課長のために朝御飯を作るんだ。
魚を焼いて、玉子焼きと御味噌汁を作って...。
そんなことを考えながら、手紙を鞄に仕舞い、ベッドに横になり、再び課長のそばに寄り添った。
さっきと変わらずスヤスヤと寝息を立てて眠る課長を見ているだけで、胸が張り裂けそうになる。
出会ってから今日までの課長と共に過ごした日々が次々と思い出される。
楽しかった日々。辛い事もたくさんあったけれど、それでも貴方の側にいたくて。
でももう終わりにしなきゃ駄目なんだ。
