そういえば、さっき、美空は何かを言いかけていた。


何を言おうとしたのか、聞いてみる。



『大したことじゃないから、大丈夫』






美空は、そう言った。





その時は、それ以上何も聞けなかった。


綾のことで、今尚愛する女を苦しめている自分に後ろめたかったからだ。











帰りのエレベーターの中。


モーターの音が、密室の中に響いている。



さっきから気になっている美空の『約束』。



約束の内容を聞こうとした時。
エレベーターの中に響く、携帯が震える音。


ポケットから取り出して確認すると、綾からのメール。


『会社に着いたわ』


......会社に着いた?駅で待ち合わせの筈だろう?


思わず、眉間に皺を寄せた。




美空は、綾からのメールだと気付いた筈だ。

そのことについては何も触れなかったが、知り合いに会わなくてはならないんだと、彼女は言った。




その時の彼女の様子が少しばかり気にはなったが、きっと綾のことが気になるのだろうと、それ以上は俺も何も言えなかった。