給湯室の片付けを終え、帰る準備をする。
部屋の中には、部長と課長、私の他に数人。
「お先に失礼します。お疲れ様でした」
なるべく課長を見ないように挨拶をして、私は企画部の部屋を出た。
この後、修一さんの待つホテルへ行くべきか悩みながら、エレベーターまで歩く。
嫌だ。
行きたくない。
でも、行かなきゃ時計を返してもらえない。
――――その時。
「美空」
後ろから私を呼ぶ声がした。
胸が、心が。切なくて痛くて。
愛する人が私を呼ぶ声。
「下まで一緒に行こう」
エレベーターの中。
二人きりの空間。
やっぱり、言おうか。
だけど、今から綾さんと会うんだよね...?
一人、心の中で葛藤する。
「美空、約束って何だ?」
不意に課長に聞かれ、一瞬動揺した。
「?」
「さっき言ってただろう?今日約束があるって」
横目で私を見ながら、課長が言った。
「え?あぁ...」
課長に打ち明けるのなら、これが最後のチャンス。
「実は...今か....」
ブブブ...
話そうとしたときに、課長の胸ポケットから聞こえた携帯が震える音。
携帯を取り出して画面を見た課長の顔が険しくなった。
綾さんからだと、直感でわかった。
......言えない。
「......これから、知り合いに会わなきゃいけないんです。ただ、それだけです」
課長の目を見られず、俯き加減で言った。
さっきもそうだった。
課長に打ち明けようとしたら、石川さんが課長を呼んだり、今も綾さんからメールが来たり。
まるで、何かに邪魔されているみたい。
課長に言うなってことなのかもしれない。
そして。
課長は綾さんのものなんだと、改めて思い知らされる。
