ゴーと大きな音を立て、風と共に電車がホームに入ってきた。


目の前で空いたドアから車両に乗り込むと、反対側のドアの所に立っている美空の姿。


どうして?

今まで電車で会うことなんて無かったのに。


美空のマンションを知ってたから、この電車で通勤している事は知ってはいたが、俺のほうが早く会社に着いていたから同じ電車で乗り合わせる事なんか無かったのに。



どうしてこんな時間に乗っている?


足はもう大丈夫なのか?



普通に接してくる美空。


金曜日の事が、まるで夢であったかのように。


こんなにも、お前の唇の感触を覚えてるのに。
こんなにも、お前の香りを、吐息を、体温を覚えているのに。



会社に着いてからも、お互い金曜日の夜の事には一切触れずに仕事をする。