令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

婆やがママと私に熱い紅茶を持って来てくれた。


「ありがとう……」


いつもは多目のお砂糖とミルクを入れるのだけど、それが億劫で何も入れずにそのまま一口すすった。熱くて、苦かった。


「松本さんって人とは縁がなかったのね……。今度また素敵な人と出会ったら、その時は多少の冒険をしてみても良いのじゃないかしら?」

「………」


ママは松本さんの事、過去の事として話してる。

私はずっと松本さんの事を考えていた。どんな人なのか。どうして私にキスしたのか。私はどうしてキスを避けなかったのか……

でも、そんなの意味なかったんだ。だって、もう二度と松本さんには会えないのだから。会いたくても、会うすべがないのだから……


「ママも若い頃は合コンに行ったものよ? 時々だけどね。あ、パパには内緒よ? あの人、とてもヤキモチ妬きだから……」


やだ、涙が出そう。


「ママ、私お風呂に入る。ごめんね?」


ママの話は続いていたけど、もう無理。
私は泣き顔をママに見られないよう、急いで立ち上がってママに背中を向けた。


「栞、どうかしたの?」

「ううん、なんでもない。おやすみなさい」


私はママを振り返る事なくリビングを後にした。溢れ出した涙が、頬を流れていた。