悠馬さんは目を開き、真っ直ぐ上を見ていた。私は悠馬さんの視界に自分の顔が入るようにして、


「悠馬さん、私が誰かわかる? 悠馬さん……」


と何度も呼びかけた。すると、悠馬さんの唇が微かに動いた。


「え? 何?」


悠馬さんは何かを言おうとしていると思い、私は悠馬さんの口に自分の耳を近づけた。


「……し……お……り」


聞き取るのが難しいぐらいな小さな声で、途切れ途切れではあるけど、確かに悠馬さんは私の名を呼んでくれたと思う。


「そうよ、栞よ? 悠馬さん、戻ってくれてありがとう……」

「……あ」


続けて悠馬さんは何かを言おうとした。“あ”と聞こえたと思う。


「れ……は……」

「“あれは”なのね?」

「ほ……ん……と……う……だ……よ」


繋げると、“あれは本当だよ”になると思う。それはたぶん、あの日に私がした質問の答え。つまり、私を好きだと言ったのは、本心だったという事、よね?


「ありがとう、悠馬さん。私もあなたが大好きです」




この日を境に、悠馬さんの容態はみるみる良くなって行った。心配された記憶障害や後遺症もなかった。

色々あったけど、私達は最初からやり直す事になった。


「じゃあ、合コンから始めるの?」

「ん……そこはスルーしようぜ?」

「そうね。お互い、合コンは苦手だもんね?」


おしまい。



最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

2013.6.15 秋風月


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後日談(23P)を追加しました。
よろしかったら続きをお読みください。

2013.6.25