令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「おい、杏里さんは来ないのか?」


後ろから男、たぶんサブって奴だと思う、にそう聞かれ、思わず俺はハッとなった。今夜の事に杏里さんが関係している事を、出来れば栞には知られたくなかったからだ。


俺はそれに答えず、「栞、帰ろう?」と言って栞の腕を持ち、彼女を立たせようとしたのだが、なぜか栞は立とうとしなかった。



「栞……?」

「おい、杏里さんは来ないのか、って聞いてんだろ?」

「うるさい! そんなの知るか!」

「何だと? その言い草はねえだろうが。誰のせいでこうなったと思ってんだよ?」


俺はそれを聞いてまたハッとなった。このサブという奴は、杏里さんから詳しく聞いているらしい。つまり俺が復讐目的で栞に近付き、彼女を傷付けようとしていた事を。


という事は、栞も知ってしまったのだろうか……


「諦めな。このお嬢さんに全部ばらしちまったぜ。あんたが杏里さんに頼んでこうなったって事と、それまでの経緯をな」


やはりそうか。出来れば栞に知られずに黙って姿を消したかったのだが、こんな事態になっては、どうせそうも行くまい。それが少し早かっただけだ。
しかし、


「俺は、こんな事を頼んだ覚えはない」


その事だけは否定しておきたかった。


「でも悠馬さんは、ずっと私を騙してたのよね?」