「やってらんないわ」


杏里さんはそう呟くと、携帯を壁に向けて投げつけた。携帯は壁に当たり、ベキッと嫌な音をさせた。


「な、何て事を……」


唯一、栞を救う手立てが、今なくなった。なくなってしまった。


「杏里さん、あんたって人は……。栞が何をしたって言うんですか? あの子には、何の罪もないのに……」

「あら、あたしはあんたと同じ事をしただけよ? あんただって、お祖父さんへの恨みをあの子で晴らそうとしたんでしょ? あたしも、あんたへの恨みをあの子で晴らしただけ。一緒じゃない?」


「クッソー、バカヤロー!」


俺はそう怒鳴って杏里さんの部屋を飛び出した。背後で「行っても無駄よ!」と聞こえたが、それは無視して。


バカは俺だ。最後に杏里さんが言った事は、その通りだと思う。吉田泰造への恨みを、孫娘で晴らそうなんて、なんて俺は愚かだったのだろう……