そして翌日。

俺は早めに家を出て栞と待ち合わせた駅へ向かった。約束の時間より早く着きそうだが、はやる気持ちを抑えられない。先に着いて女を待つというのは、本来は性に合わないのだが仕方ない。


そう思ったのだが、果たして栞は既に来ていた。壁を背にして、姿勢良く立つ栞は、まるで照明を受けてステージに立つアイドルのようだ。行き交う男共がチラチラ栞を見て行き、俺は気が気でなくて足早に栞に近付いて行った。


「やあ、待たせちゃったかな?」


栞とは昨日会ったばかりなのに、これからデートだと思うと照れくさくなり、つい顔がニヤケてしまった。


「いいえ、それ程でもありせん」


と言って微笑む栞は、いつもにも増して可愛いと思った。俺と会うために早起きしてくれたと思うと、それだけで俺は嬉しかった。


久々に栞と手を繋いで歩き出したものの、どこへ行くか決めてなかった事に俺は気付いた。栞と会う事しか頭になく、考えていなかったのだ。行き先なんか、どこでも良かったし。栞と一緒なら……


栞は、「パンダが見たいです」と言った。栞らしいなと俺は思った。パンダと言えば動物園だが、いい年した大人のデート場所としてはどうかなと一瞬思ったが、俺もガキの頃から動物を見るのは好きだし、という事で俺達は動物園へ向かった。


今日は小春日和の穏やかな陽気で、栞との最初で最後のデートがこんな日で本当によかったと思う。俺は柄にもなく、お天道様に感謝した。