「あの、悠馬さん? お体の具合が悪いんですか?」


そんな暗い気持ちが俺の顔に出ていたらしく、栞は俺の体を気遣ってくれた。

俺はこんないい子を本気で虐めようとしてたのだろうか。我ながら信じられない。この子には、うんと幸せになってもらいたい。

俺の事なんか忘れて、もっと優しい男と知り合って……と考えるのは、今はまだ無理だが。


具合は悪くない、と答えたら、


「明日なんですけど、どこかへ行きませんか?」


と栞は言った。

引っ込み思案な栞から誘って来た事に俺は驚いたが、もっと驚いたのは、


「おまえ、出掛けられるのか?」


という事だった。栞はてっきり父親から外出を禁じられていると思っていた。ハワイから帰った後の数日がそうだったように。

聞けば先週の休みも出掛けられたそうで、俺は貴重な栞とのデートをふいにしていたらしい。だったら……


「じゃあ、明日は出掛けるか?」


と言ったら、栞は満面の笑顔で「はい!」と答えた。


考えてみたら、栞とまともなデートは一度もしてなかった。よし、明日はそれをしよう。栞との、最初で最後のデートを。思い出のために……