それから数日が過ぎたが、俺は未だに踏ん切りがついていない。店長に店を辞めると言う、たったそれだけの事が出来ずにいた。

それはもちろんバイトへの執着からではなく、栞の前から姿を消す、という事に対する心の葛藤のためだ。だが、こうしてダラダラ引き延ばしても余計に辛くなるばかりだろう。今日が無理でも、明日は店長に辞めると言わなければ……


そんな事を考えながら仕事をしていたら、栞が俺に話し掛けてきた。


「あの、明日って何か用事ありますか?」

「明日?」


そう言えば今日は金曜だったな。明日は土曜で大学は休みだが、特に用事なんてないからそう答えたら、


「実は私もなんです」


と言って栞はニッコリ微笑んだ。その眩しいほどに明るい笑顔があまりに可愛くて、俺は敢えて視線を逸らした。こんな栞を見てたら、ますます気持ちが膨らんでしまい、もっと辛くなりそうだったから。