「栞の事は……もういいよ」

「“もういい”って、悠馬……?」

「だから、もういいんだよ。俺は……栞の前から姿を消す」


バイトを辞めて。卑怯かもしれないが、俺は栞に何も言わず、黙って消えようと思う。栞に何て言っていいか分らないし、別れを言うのは辛いから。


「栞さんの事、諦めちゃうの?」

「ああ」

「いいの? それで。栞さんの事、好きなんでしょ?」

「仕方ないだろ? 俺達は住む世界が違い過ぎるし、最悪な出会い方だし……。俺に考える余地なんてないよ」

「栞さんの気持ちはどうなるの?」

「え?」

「あなたはそうやって割り切れたとしても、栞さんはどうなるの? 可哀想でしょ?」

「俺の事なんか、どうせすぐに忘れるさ」

「何を勝手な事を言ってるのよ。ちゃんと栞さんの気持ちを考えてあげなきゃダメでしょ? 正直に話して、お詫びして、これからの事を話し合わなくちゃ……」

「話し合う余地なんかないよ。もう……ほっといてくれ」


俺はそう言うと立ち上がり、おふくろさんに背を向けた。


「悠馬、そんな事ないわよ。まだやり直せるんじゃないの?」


“やり直す”、か……。それが出来たらいいよなあ。出来るなら、栞と出会ったところから、もう一度やり直したいよ……