令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「お金をお返しするためよ」


やっぱりか……


「ところが、受け取ってくださらないの」

「え?」

「ようやく少しづつでもお返し出来るようになったのに、会長さんは一度も受け取ってくださった事がないの。子ども達はまだ学生なんだから、お金はそっちに使いなさいって……」


ああ、そうか。それであの時、つまり吉田商事を出て行く時の、おふくろさんの後ろ姿に元気がなかったのかあ。


「どう? それでもあなたは会長さんを恨む?」


そう聞かれ、俺は首を横に振って下を向いた。

俺にはもちろん、吉田泰造を恨む気持ちはもうない。おふくろさんからそんな話を聞かされた今となっては。


つまり会長は、恨む相手どころか、俺たち家族にとっての恩人だった、という事か?

正直、いきなりそんな風に考えを切り替える事は出来ないが、俺のやって来た事が大きな間違いだった、という事は認めざるをえない。


ああ、俺は何て事をしちまったんだろう……