令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「おふくろさん、よく聞き取れなかったんで、もう一回言ってくれる?」

「いいわよ。私はね、会長さんには感謝しているの」


えっ? 聞き違いじゃなかったのか?


「そんなバカな! 冗談だよね?」

「いいえ、本当よ?」

「あ、わかった。それは何かの比喩だね? あるいは皮肉とか?」

「違うわよ……。あなたや由紀には黙っていようと思ったし、秘密にする約束だったけど、こうなったら言うわね。なぜ私が会長さんに感謝しているのかを……」

「なんか、あんまり聞きたくないかも……」


あんな奴の話なんか。


「いいえ、聞いて頂戴。

あの人が死んで、多額の借金が残ったの。家や家具を売り払って、僅かだけど生命保険が降りたからそれも返済に充てたけど、全然足らなかった。

取り敢えずこのアパートに引っ越したものの、途方に暮れていたある日、あなたと由紀は学校に行ってていなかったけど、会長さんが来てくれて、“これは香典だと思って受け取ってください”って、小切手を渡されたの。見たら、すごい金額だった。残りの借金を全部返してもお釣りが来るくらいに。

なんでも、どこかの別荘を売却したお金だから、気にしなくていいとおっしゃってたわ。私は、そんな大金は受け取れないって言ったんだけど、内心では喉から手が出るほど欲しかった。それでとうとう受け取ってしまったの。ただし、“必ずお返しします”と言って。

あのお金がなかったら、今頃私達親子はどうなっていたか分らないわ」