令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「あの人は、気が小さいくせに野心家だった」

「え? おやじさんが?」

「そうよ。地道にコツコツ、というのじゃ我慢出来ないらしくて、ちょくちょく冒険してたわ。もちろん失敗する事の方が多かったけど、懲りないのよね……。それでも何とか頑張ったのだけど、あのおもちゃには参ったわ。誰がどう見たって売れるはずないのに、あの人ったら誰にも相談しないで、一度に大量に買い込んじゃって。たぶん悪徳なブローカーに騙されたのね……」


あの変なおもちゃか……。スチール製の三輪車みたいな乗り物だが、漕ぎづらくて前に進まないわ、安物のステンレスですぐ錆びるわ、溶接が酷くて壊れやすいわで、ろくな物じゃなかった。思い出したくもないが。


「でも、また一からやり直せばよかったのよ。借金を抱えて大変だけど、家族みんなで力を合わせれば、何とかなったはずだわ。それなのに、その家族を残して自分だけ逝っちゃうなんて……」

「おふくろさん……」


おふくろさんの目から、涙がこぼれ落ちていった。思えば、おふくろさんが泣くのを見るのは、おやじさんの葬式の時以来だと思う。