「あのさ、去年の暮れ、おふくろさんは吉田商事の本社に行ったよね?」


おふくろさんの顔を真っ直ぐ見ながらそう切り出したら、途端におふくろさんから笑顔が消えた。


「ど、どうしてそれを……?」

「俺もあそこに行ってたから、あの日」

「あなたが? どんな用で?」

「それは後で話すよ。おふくろさんは、会長の吉田泰造に面談したんだよね?」


おふくろさんから変な言い訳は聞きたくなくて、俺はずばり核心に触れた。

俺は、おふくろさんが吉田泰造と会う理由を聞こうと思う。ただし、もし俺が想像した通りだとしたら、つまり、復讐目的で吉田泰造に会ってるとしたら、俺はどうするかを決めていない。

止めさせるか、それとも手伝うか……


「そうよ。私は確かに会長さんとお会いしたわ」

「あの日だけじゃなくて、時々会ってるんだってね?」

「どうしてそんな事まで知ってるの? まさかあなた、会長さんから聞いたの?」

「違うよ。たまたま社員の噂話が聞こえたんだ」

「噂? 私の事が噂になってるの?」

「ん……それは気にしなくていいと思うよ」


おふくろさんが吉田泰造の愛人かもしれない、などというバカな噂話を、わざわざおふくろさんに言う気にはなれなかった。


「それよりさ……」


俺はこの後、更に核心に触れようと思うが、緊張で心臓がバクバク言いだした。