「助けていただいて、ありがとうございました」


私は革ジャンの人にお礼を言い、ペコリとお辞儀をした。


「どういたしまして」


革ジャンの人は、やはり抑揚のない低い声でそう言った。


「あの、後ほどお礼をしたいので、お名前などをお聞きしてもよろしいですか?」


と私が言ったら、


「あ、いいえ。自分はただの通りすがりですから。では、これで……」


とその人は言って会釈をすると、私が呼び止める間もなく、あっという間に行ってしまった。


通りすがり?
でも、ここは女子大のキャンパスの中よね……。教授にあんな方がいらしたかしら。


年齢は間違いなく私よりも上だけど、“おじさん”と言うほどではないと思う。という事で、私の中では“通りすがりのお兄さん”という呼び名であの人を憶える事にした。

もちろん、私は“通りすがりのお兄さん”にとても感謝している。もしあのまま俊樹さんに連れ去られてたら、私はどんな酷い目に遭ったことか……