令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

店に入って店長に挨拶したら、店長の顔が腫れていた。


「店長、どうしたんですか? 顔が……」

「何でもない。聞くな」


そう不機嫌に言われてはそれ以上は聞けないが、たぶん誰かに殴られたのではないかと思う。あるいは殴り合ったか。


着替えが終わって店に出て来た杏里さんに、そっと小声でその事を聞いてみた。


「ハゲったら、お客さんと喧嘩したのよ。バッカみたい」

「えっ、それは珍しいですね?」


店長は見かけによらず我慢強いみたいで、タチの悪い客が相手でも、喧嘩するって事はなかったと思う。


「客と言っても、相手はサブちゃん達だけどね」

「サブちゃん達……? ああ、あの連中かあ」


と言っても俺は一度か二度、それもチラッと見かけただけだが、サブちゃんという男は近所に住むゴロツキで、一応はこの店の常連客らしい。いつも子分を2人ほど連れて歩き、この店には杏里さん目当てで来てるらしい。


そのゴロツキは、すぐに杏里さんにちょっかいを出し、杏里さん自身は適当にあしらっているらしいが、店長はそれでいつもイライラし、いつ喧嘩になってもおかしくなかったらしい。

そして今日、とうとうそれが起きてしまったという事だ。ゴロツキを、しかも三人も相手にするなんて、店長も頑張るなあ。

もっとも、当の杏里さんからは「客相手にバッカみたい」なんて陰で言われてるわけで、頑張り甲斐はなさそうだが。