令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「どうぞ」


秘書らしき女に促されて中に入ると、正面の立派な机の向こうに、憮然とした顔で座る吉田泰造の姿があった。


「遅れてすみません」


一応は礼儀と思ってそう詫びると、吉田泰造は、「うむ」と言って立ち上がった。そして、


「座りなさい」


と俺に言い、俺がソファに座ると、自分もその向かいに深く腰を下ろした。


俺が遅れたのは、ロビーでおふくろさんを見て、かつ社員の噂話に聞き耳を立ててたからだが、それを吉田泰造に言うつもりはない。おふくろさんが、偽名を使って吉田泰造に会っている可能性があるからだ。


さてと、どう話を切り出そうかな、と思っていたら、吉田泰造の方から口を開いた。


「会社を見学したいそうだが、うっかりその準備を忘れていたよ。どうするかね?」

と。

ああ、そう言えばそういう名目で俺はここに来たんだったな。俺もすっかり忘れていたよ。