令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

最上階でエレベーターを降りると、そこの床は赤っぽい絨毯が敷き詰められ、照明はちょっと暗めで、明らかに他のフロアとは雰囲気が違っていた。会長やら社長やらの重役専用って事で、このフロアだけ他とは作りが違うのだろう。


正面にまたもや受付があるが、こちらも1階のそれとは雰囲気が違った。1階の方は銀行のカウンターなんかに似た感じで明るい雰囲気だったが、こっちは厳かというかシックというか……。


座ってる女も、1階のような派手な制服ではなく、紺のスーツをビシッと着込み、いかにも“私、仕事出来ますの”ってな感じの澄ました顔で俺を見ていた。たぶん秘書なのだろう。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」


俺が挨拶を返すと、秘書らしい女は微笑を浮かべながら俺の顔をジーッと見た。

なんだ? ああ、名乗れって事か。


「松本と言います。会長さんに会えますか?」

「松本悠馬さんでいらっしゃいますね?」

「はい」

「会長はお待ちですよ。どうぞ、こちらです」


そう言って女はすっと立ち上がり、『会長室』と書かれた木製のドアをコンコンと軽快にノックした。そして、


「会長、松本悠馬さんがお見えになりました」


よく通る声で女が言うと、


「通しなさい」


という低い声が中から聞こえた。それは正しく、昨夜栞の家で会った吉田泰造の声に間違いなかった。


俺はこの雰囲気に気圧されそうだったが、気合を入れるべく、拳をギュッと握り締めた。