「何がだ?」

「ほら、会長の……噂の女ですよ?」


なんだと!? おふくろさんが、吉田泰造の……!?

馬鹿馬鹿しい。何を言ってやがるんだ?
俺は、それを言った若い方の男の首を絞めてやろうかと思ったが、なんとかそれを堪え、気を鎮めながら更に聞き耳を立てた。


「ああ、そんな噂は俺も耳にした事があるな」

「本当なんですかね、課長?」

「さあな。会長はお歳だし、ガセじゃないかな」

「私もそう思いますが、ああして時々女が会いに来る理由が説明つかないんですよね。いつもアポなしで来て、それでも会長は会うらしいですよ。もちろん社にいればですけどね。二人で料亭に入るところを見た奴もいますよ」

「それだけで愛人と判断するのも早計じゃないかと俺は思うな。ま、どちらにしても俺達には関係ない話さ。お、お客様が見えたぞ?」

「は、はい!」


二人の待ち人が現れたらしく、話はそこまでだった。


課長らしい年配の方の男が言ってた通り、おふくろんさんが吉田泰造の愛人、なんて事はありっこない。100パーセントない。だが、いったいなぜおふくろさんは吉田泰造なんかに会うのだろう。相手はおやじさんの仇だというのに……


あ。もしかして、おふくろさんも俺と同じかもしれない。吉田泰造に復讐するために、奴に接近しているのかも……