なるほどね。栞達親子が暮れにハワイへ行くのを、吉田泰造は気に入らないらしい。つまりハワイの話は禁句で、俺はその地雷を踏んじまったわけか……

だが、俺にはそんなの関係ない。俺はただ知りたかっただけだ。吉田泰造も明日から出かけるのかどうかを。


「そうですか。実は僕、大学を出たら商社で働きたいと思ってるんです。まだ先の事ですが、商社の中はどんな環境なのか、一度見学したいなと思ってたんです。中でも超一流の吉田商事さんを拝見出来たら、勉強になるだろうなと思いまして……」


俺は吉田泰造を真っ直ぐに見てそう言った。会社を見学したいというのは真っ赤な嘘で、本当の狙いは吉田泰造とさしで話をしたいという事なのだが、その真意は吉田泰造に伝わっただろうか。ま、どっちでも構わないのだが。


「いつかね?」

「出来れば明日にでも……」

「うむ。亮平、わしのスケジュールを見てくれ」

「は、はい」


栞の父親は、ポケットからスマホを取り出して操作を始めた。どうやら吉田泰造のスケジュールにアクセスしているらしい。


「12時から15時までは空いています」

「そうか。その時間で良ければ訪ねて来なさい」

「はい。では14時に伺います」


よしと……。明日が楽しみだ。