吉田泰造も父親も、この場で俺のおやじさんの話をする事はないだろう。おそらくは何も知らないであろう栞やその母親の前で、人を死に追い詰めた罪を、わざわざバラすわけないからな。

むしろ俺がその話をしやしないかと、内心ビクビクしているのかもしれない。うん、たぶんそうだ。


そして俺はある事を思い付き、


「会長さん……」


と、呼びかけた。すると、吉田泰造は下を向いてスープをすすっていたらしいが、その手を止めて顔を上げ、鋭い視線を俺に向けた。憎悪と恐怖が混じったような目で。しかし俺は何食わぬ顔で、


「会長さんもハワイに行くんですか?」


と聞いてみた。すると、なぜか栞達が微かに息を飲む気配がした。


「わしは行かない。暮れの忙しい時期に旅行などせん」


吉田泰造は怒気を含んだような低い声で言い、重たい空気が更にそれを増したのを俺は感じた。