「もしかして就活?」

「んなわけないだろ? 俺はまだ2年だ」

「そっか。じゃあなんで床屋さんに行ったの?」

「それはだな……栞の家に行くからさ」


本当は適当にごまかそうと思ったが、うまい言い訳が思い付かず、仕方なくありのままに言った。


「それってもしかして、栞さんがお兄ちゃんを親に紹介するって事? 単に遊びに行くって感じじゃないもんね?」

「ま、まあな」

「やったね! そうかあ、栞さんとそこまで進んだんだ……。お兄ちゃん、やるう!」


由紀はそう言って親指を立てた。“グッジョブ”って意味か?


「じゃあさ、次は栞さんを家に招待しないとね?」

「はあ? なんで?」

「“なんで”って、それはこっちの台詞だよ……。今度は栞さんをお母さんに紹介しなきゃ。それが順番ってものでしょ?」


栞をこんな狭いアパートに呼ぶってか?

そんなの、みっともなくて出来ねえよ。第一、俺と栞は長く続かねえんだから、そういう事はしない方がいい。


と言っても、それを由紀に言えるわけもなく、

「わかった。その内な?」

と、心にもなく俺はそう答えるのだった。