やばい!

杏里さんがマグカップに手を伸ばし掛けたのを見て、それよりも一瞬早く俺はマグカップを手で押さえた。

あぶなかった……。もしこれを投げつけられたら、火傷しちまうところだった。と安心したのも束の間、


バッシーン!


俺は左顔面に衝撃を覚え、目から火花が飛んだ。杏里さんに、顔をおもいっきり引っ叩かれてしまった。


「痛え……」

「な、何が“彼女”よ! ふざけないで!」


焼けるように熱い頬を手で押さえながら、立ち上がった杏里さんを見上げると、彼女は凄い形相で俺を睨みつけていた。


「それは、その……うわっ」


杏里さんはテーブルを乗り越え、俺に飛び掛かってきた。


「あんた、あたしを捨てる気!? そうはさせないからね!」


杏里さんは後ろに倒れ込んだ俺に馬乗りになり、手で俺の首を絞めながら叫んだ。本気で抵抗すれば殺される事はないだろうが、とにかく杏里さんの気を静める必要があると思い、俺はこう言ってしまった。


「待ってください。か、彼女は、本当の彼女じゃないんです」

と。