令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~

「教えてあげる。それはね……あたしとハル君が一緒にいるのが嫌だからよ?」

「えっ?」

「驚きでしょ?」

「はい、まあ」

「あたしもびっくりよ……」


俺が驚いたのは、もちろんその事自体にではない。杏里さんがその事に気付いた事に対してだ。

今まで、杏里さんが店長の気持ちに気付いてなかった、という事は間違いないと思う。それなのに、なぜ今日に限って気付いたのだろうか。

しかも、今まではもっと直接的な店長の素振り、例えば杏里さんにだけ猫撫で声で話し掛けたり、休みの予定を聞いたり、やたら触って来たり等々にも気付かなかったくせに……


ああ、そうか。俺が行くまでに、店で何かあったんだな?


おそらく杏里さんの話とは、その事なのだろう。どんな話かは分からないが、俺にとってあまり都合のいい話ではなさそうだ。


やはりもっと早く、杏里さんとの関係を終わらせておくべきだったか。今更だけど。

俺は憂鬱な気分で、杏里さんがコーヒーを淹れ終わるのを待っていた。