葉っぱの隙間から喫茶店の入り口を覗いたら、確かに近藤絵理らしき女が店に入って来ていた。そしてその後ろに……来た!

近藤絵理に続き、吉田栞が店に入って来た。彼女の真っ白いフワフワしたコートが、目に眩しいくらいだった。


「こんにちは。どうして返事をくれなかったの?」


近藤絵理は、弘司に近付くと開口一番にそう言った。気の強そうな女だ。


「すみません。僕の携帯が壊れちゃったもので……」


弘司の奴、何が“僕”だよ……


「ああ、それじゃ仕方ないわね?」

「はい……」

「で、榊原さん、お一人だけ?」


来た!


「いいえ」と弘司は言い、俺を向いて、


「おい! 隠れてないで出て来いよ」


と言った。俺は覚悟を決め、「おお」と言って植木の陰から出た。吉田栞の様子を窺いながら。


吉田栞は、俺を見て目を大きく見開いた。びっくりしたみたいだ。当たり前だけど。

その後、彼女がどんな反応を示すか見ていたが、怒り出したりはしないらしい。顔がほんのり赤くなり、なんかちょっと、嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。


何か言おうか。そう思った瞬間、近藤絵理が前に立ちはだかった。まるで吉田栞を庇うかのように……