たまらず彼女をかき抱いた。
「あたりまえじゃん……っ」
俺の背中に回される、不慣れでぎこちない手の動きに、胸が疼いた。
誰か一人を愛しいと、たまらないと、ここまで強く激烈に感じたのは、生まれてはじめてだった。
「……すこし、こわくなってた」
「こわい? なにが」
「ずっとにこにこ笑いかけてくれる入栄くんの気持ちが、離れて行ってるような気がして……」
本心では、つらいのをわかってほしいという気持ちをぶちまけたいはずなのに、ずっと我慢して笑いかけてくれる俺を、彼女は、そろそろ忍耐も底を尽き、わたしのことなどどうでもよくなりつつあるんじゃないかと思っていたという。
邪推も甚だしいが、言われて入栄はそこまで悪い気はしなかった。
彼女が自身のものになったという高揚感で、足が宙に浮いているような心地でさえあり、そのこと以外の問題など、すべてが取るに足らない些細なことのように感じられた。
けれど、律儀な彼女はなおも深刻そうに言葉を紡ぐ。
「独り善がりで、すごく、わがままだった……。
別の誰かを好きになったのかも知れない、って思うとなんだかもういてもたってもいられない気分だった。
待たせてる身なのになんて図々しいって思ったでしょ。わたしもそう思う……。
でも実際そんなふうに考えはじめると不安で、こわくて、でも、引き留めるのはちがう気がしてできなくて……。
……なんか、上手く言えなくて。ごめんなさい」
「ううん。こわくおもったっていうのは、俺のことをそういう意味で気にしてくれてたからでしょ。ちっとも図々しいなんて思わんよ」
むしろうれしい、と両手で挟み込んだ頬を撫で回し、額に額をあてる。

